伝統的工法について

Traditional Construction Method

POINT.01

大工の手刻み – てきざみ – Hand-carving

「刻み(きざみ)」とは、木材に穴を開けたり、切り欠きを作ったりして、木材を単なる「素材」から、建物を構成する「部材」にする作業のことです。この作業を、大工職人が手作業で行うことを「手刻み(てきざみ)」と呼びます。また、人間の手作業ではなく、自動化された工場で機械加工することをプレカットと言います。現在は、木造軸組構法で建てられる住宅の9割以上が、プレカットによって建築されています。

手刻みの場合、構造材には天然乾燥の木材を使用し、大工職人が木の癖を見て、適材適所で組み合わせを考えて作ります。木材には個性があります。一つとして同じ木材はありません。その木材の癖を見極め、プレカットではできない加工も可能です。

伝統的工法では、壁ではなく骨組み自体が重要な耐震要素となります。木材同士の接点を多く作り、摩擦抵抗と木材同士のめり込みが、地震への抵抗要素です。粘り強い構造となります。接点が多いことで、地震時の減衰効果もあります。

構造材である木材を、長さ方向に繋げるのが継手(つぎて)、直交方向に繋げるのが仕口(しぐち)です。どちらも木材を加工して金物を使わずに繋げます。(込栓の写真)このとき、「金物を使わずに」というのが重要です。金属は湿気を呼び寄せ、次第に錆びていきます。すると、錆と水分に接している木材は腐ってしまいます。いざ地震が来たときに継手・仕口が腐っていたら、地震に耐えられるはずがありません。金物を使わなくても、地震に耐えられる継手・仕口の選択が重要です。木材の見極めと、継手・仕口の選択を含めた作り方の判断は、棟梁とって非常に大切な役割です。

POINT.02

貫構法 – ぬきこうほう – Penetration tie technique

貫(ぬき)とは、柱を貫通して通す水平方向の部材のことです。

この貫は、土壁の下地の役割と、家が倒れることを防ぐ役割を持っています。貫が入った軸組は変形性能が高いので、地震などの外力を受けたときに、建物が大きく傾いたとしても、完全に倒れることはありません。現代の木造住宅で多く見られる筋違いと合板は、想定内の外力には強く抵抗し、傾きも小さく、強さを発揮しますが、能力を超えた想定外の力がかかると、一気に壊れます。筋交いや合板が壊れると、建物自体の水平方向への抵抗力がなくなってしまうので、この後に地震などの外力を受けると、その建物は倒壊してしまいます。貫構法は、地震などの外力を受けたときの建物本体の完全倒壊を防ぎ、いざというときに避難の時間をかせぎ、住む人の命を守ります。

POINT.03

土壁 – つちかべ – Earth wall

土壁(つちかべ)とは、文字通り、土で作った壁のことです。柱と柱の間に竹小舞(たけこまい)を編み、そこに泥を付けて作ります。竹小舞は、割り竹や篠竹(しのだけ)を網目状に編んだもので、編む時には藁縄を使い、竹と貫を絡ませます。土壁に使用する泥は、粘土質の土に水と藁スサを混ぜて寝かせたもので、藁が発酵することで粘りのある泥になります。竹小舞にこの泥を付けてから乾燥するまでに、1ヵ月~2ヵ月の期間が必要です。

土壁は優れた調湿性能と蓄熱性能を持っています。吸放湿性能が高いので、室内の湿度が高いときは湿気を吸い、乾燥しているときは湿気を放出します。おおよそ、相対湿度50%~70%程度で室内湿度を保ってくれます。

また、蓄熱性能が高く、熱をため込むことができます。蓄冷もします。このため、室内温度が外気の影響を受けにくく、室内温度の急激な変化を押さえてくれます。それから、土壁は地震への抵抗要素としても非常に優秀です。地震時には、まず土壁で抵抗します。土壁は硬くもろいので壊れますが、壊れるときに大きなエネルギーを消費し、高い減衰効果があります。土壁が壊れた後に、貫と仕口(木材同士の接点)が抵抗します。

POINT.04

板倉 – いたくら – Wood warehouse style

板倉(いたくら)とは、柱と柱の間に板をはめ込んで造る構法のことです。この板倉は、古くから神社や穀倉などでよく用いられてきましたが、これは大切なものを守るための建築として、昔から私たち日本人の信仰と暮らしに必要なものであったことを意味します。もちろん住宅を建てるための構法としても古くから用いられています。

板倉の大きな特徴として、室内環境の快適さが挙げられます。木材、特に板倉構法によく使用される杉板は、多くの空気を含んでいるので、柔らかく、吸放湿性能に優れ、断熱性能を備えています。構造材も杉、壁も床も杉、屋根も杉で、杉に囲まれた空間が板倉の快適性の理由です。豊富な森林資源をもつ日本に相応しい構法と言えます。

また、構造的にも優れており、地震などの外力に対しては貫構法と同様に、木材同士のめり込みで抵抗する粘り強い構法です。

木材を多用するということで心配されるのが火事だと思いますが、実は、木材は急激には燃え進まないという特徴があります。木材を片側から燃やすと、1分間に0.8㎜進行していきます。つまり、30分間燃やし続けても深さ24㎜までしか燃えないことになります。この燃え進むのが遅い特徴を活かして、木材を厚く・太く使うことで、たとえ火事が起こっていても延焼を防ぐことが実証されているので、市街地での木造建築も可能です。※延焼とは隣家が燃えている時に、その隣の家に火が移って燃えることです。

POINT.05

再生可能 Renewable resource

伝統的工法の建物は、建てるときと反対の順序をたどることで解体が可能なので、移築や転用などの再利用ができます。現地再生や移築する場合は、木材の傷んだ部分だけを交換し、土を練り直すことで、ほとんど全ての材料が再利用できます。また、木や紙は燃料にもなりますので、再利用できない場合も廃棄物になることはありません。伝統的工法に使われる素材は木、土、石、紙と全て土に還るものばかりです。とても環境に優しい工法です。

POINT.06

長寿命 Long life

建物の寿命に大きな影響を与えるのは湿気です。伝統的工法で使われる素材は、湿気を吸ったり吐いたりして、自分で調湿することができるものばかりです。湿気に対応できない金属は錆びてしまいますが、木材は濡れても乾けば問題ありません。乾燥状態を保ち、腐らないように工夫してあげることで長持ちします。その特徴的な工夫として、軒を深く出すことで雨がかりを避け、それでも雨がかかる部分には腰壁を張ることで、構造体を湿気から守っています。

また、地震などで被害を受けても部分的な補修をすることで、再利用することができます。そのためには、柱や梁の構造材が見える「真壁(しんかべ)造り」であることが重要です。これに反して、柱などの構造材を見えなくしてしまう工法の「大壁(おおかべ)造り」では、構造材が被害を受けていても目視では判断ができないため、被害を確認するだけでも建物全体の工事が必要となります。

構造材が見えていることの利点は、地震被害の修理だけではなく、雨がかりなどで腐ってしまった部分の補修も比較的簡単にできる点です。また、リフォームなどで間取りの変更を行う際にも、構造体を痛めないリフォームが計画できるという利点もあります。リフォームがしやすいということは、住む人のニーズに合わせて形を変えながら、長く住み続けることが可能だということです。

POINT.07

省エネルギー Energy conservation

最近何かにつけて話題に上がる省エネですが、建築物は①建てるとき②使用しているとき③壊すとき④再利用するときにエネルギーを必要とします。木造住宅を建てるときに必要なエネルギーは、鉄筋コンクリート造の3分の1、鉄骨造の2分の1程度です。

また、木造住宅を解体するときは、燃やしてしまえば土以外何も残りません。解体した廃材を燃料として使うことは、そう珍しいことではありません。伝統的工法で建てられた木造住宅は、丁寧に解体すれば再利用も可能なので、解体処分するにしても再利用するにしても、必要なエネルギーはほんのわずかです。一方、鉄をリサイクルするには膨大な電気と水を消費します。コンクリートは粉々に砕いて再生コンクリートの原料にするか、埋め立てるしかありません。粉砕する施設も埋め立て場も必要です。

POINT.08

風の通り道 Wind flow

伝統的工法で用いられる木造軸組構法は、フレーム自体が耐力を持っているので、開口部を作りやすいという特徴があります。壁に頼る工法だと、開口部の位置や大きさには制限がかかります。開口部を作りやすいので、開放的な造りの家が多く見られ、その開口部を開け放つことで、風が抜けるように考えられています。

POINT.09

見た目の美しさ Beauty of appearance

伝統的工法で用いられる木造軸組構法は「構造即意匠」と言われるように、構造がそのまま意匠(デザイン)になっています。古い民家の中に入ったことのある人は、誰しも1回は上を見上げ、整然と並ぶ小屋組みや力強い梁組みなどに見入ったことがあると思います。現代の工法では天井を張り、壁も大壁で構造体を隠してしまいますが、構造体を隠さずその美しさを見せるのが伝統的工法です。

また、軒の深さや窓の格子など、機能的目的を持って造られた形がそのまま意匠になっている点は、挙げればキリがないほど多く見られます。