1/29に貫の構造実験の見学に行きました。
実験は、伝統木構造の1スパンのフレームを、土台を固定して桁を軸組み方向に繰り返し押し引きするという内容で行われました。
試験体の制作は、九州大工志の会で行いました。
試験体の仕様は、実際に九州の家造りに使われているものをアンケートをとって制作しました。
1体目の試験体(クリックして拡大してください)
実験の様子はこんな感じです。
どんどん傾きを大きくしていきます。
傾きを大きくするために、押す力を大きくしていくのですが、この押す力と傾きの関係がその場でグラフ表示されるので、そのグラフを見ながら、このフレームがどんな特性を持つのかを判断していきます。
貫構造は非常に柔らかく、ある程度の傾きまでは小さな力で簡単に変形します。
傾きが大きくなるにつれて、ギシギシバキバキと音が大きくなっていきました。
木と木が擦れたり、めり込んだりしている音です。
そして、最後は、壊れるまで引っ張ります。
最大耐力を発揮したあとも、引き続けていくと耐力は落ちていきながらも、まだまだ傾きが大きくなっていきます。この時点では、まだ壊れたとは判断されません。
バキッと大きな音がして、耐力がどんどん落ちるときが壊れた合図です。
筋交いのように、見てわかるほどの破壊は見られません。
破壊後は、解体してどこが壊れて終局状態を迎えたのかを検証します。
解体して、あーでもないこーでもないと議論しました。
ここが私たち大工にとっては一番大事なところです。
実験は、データをとる目的でやっていますが、この壊れたところを壊れないように改良できたら、耐力アップ間違いなしですので。
で、壊れたところの考察です。
これは、柱が土台と桁に差さっている部分です。
柱のほぞが込み栓の穴から割れていました。
曲げ破壊です。
一方、込み栓のほうは多少変形したぐらいで、目立って壊れた部分はありません。
そして、貫にもほとんど変化が見られませんでした。
次の試験体です。
こちらは貫が3段で、1体目と違い貫の楔(くさび)が桧です。それから、見た目ではわかりませんが、ほぞ幅が柱の幅いっぱいです。1体目はほぞ幅を90に揃えていました。また、込み栓も1体目が18角だったのに対して、こちらは15角です。
この試験体も、バキッという音とともに耐力が落ちてきて、破壊しましたが、ほぞの端に目に見える変化がありました。ほぞが激しくめり込んでいます。
土台にささるほぞは、片方が1体目と同じように込み栓の穴から亀裂が入り、もう片方のほぞは変化なしでした。その代わり、込み栓が折れました。
こちらは、頭部のほぞですが、ほぞの端がめり込み、込み栓の穴から亀裂が入って、曲げ破壊しているのがわかります。
貫の楔は、かなりめり込みがあり、貫自体もかなりのめり込みがありました。
私が頻繁にめり込みという言葉を使っているのは、伝統構法を部分的に見ていくと、多くの部分がめり込みによって耐力を発揮しているからです。このめり込む点を多くすることで、全体の耐力を向上させることができます。
貫構法は、このめり込む部分を多く作ることで全体の耐力を構成しています。
そして、3体目の試験体です。
貫は4段で、貫の厚みが27です。また、1体目と比べて、貫の配置のバランスも違います。
ほぞ幅と込み栓の太さは1体目と同じです。
この試験体は、なんと足元のほぞが折れてしまいました。
まったく想定していなかった壊れ方です。
曲げ引っ張り破壊です。
これは、貫が強すぎて、ほぞに大きな力がかかってしまったのだろうと考えられます。ほぞ幅が柱幅いっぱいならば違う結果になったかもしれません。
地震時に、柱が折れるともちろん建物は崩壊します。
この壊れ方は非常に危険な壊れ方なので、避けなくてはいけません。
大工にとって、壊れ方を知るというのは、耐力を向上させるのともうひとつ、地震後の建物の再生の仕方を考えることになります。
例えば、3体目のように柱のほぞが折れてしまったら、土台から折れたほぞを取り出し、柱の根元を別の材料を継ぐか柱自体を取り替えなければいけません。
理想は、込み栓が折れて、ほぞ自体には損傷なしというのがいいです。込み栓を交換するだけでいいので。
そのためには、ほぞが壊れてしまわないように改良が必要なようです。
それから、全体的に貫が耐力を十分に発揮する前に、ほぞが壊れてしまって、全体の耐力があまり伸びない原因になっているようです。
ということで、今後の研究課題は、ほぞ自体の耐力を向上させること・込み栓とほぞの最適なバランスを探ること、です。その課題が解決すると、本題の「貫の最適な仕様を探る実験」ができるようになります。
いろんな物事が、繋がってきつつあります。
今後の伝統構法の動きは要チェックです!
長々とお付き合いありがとうございましたm(_ _)m